イタ・ヴェークマンのペルセフォネ神秘劇

ペルセフォネ神秘劇は、シュタイナーとともにアントロポゾフィー医学の礎を築いた女医イタ・ヴェークマンが1930年に完成させた作品です。その後長い間忘れさられていましたが、ヴェークマンの伝記の著者であるエマニュエル・ツェイルマン氏が彼女の遺稿を整理する際に偶然発見し、その貴重さを見抜いて、アントロポゾフィー医学会の定期刊行誌に掲載したことをきっかけに注目されるようになりました 。

ヴェークマンの神秘劇のベースになっているのは、ギリシャ・アテネ近郊の古代エレウシスで行われていた秘儀の一部として上演されていた神秘劇です。女神デーメーターの娘で、純粋な魂のペルセフォネ、別名コーレが冥王プルートーに誘惑されたことで、地下の深みへ引きずり降ろされてしまいます。それを嘆き悲しんだ母のデーメーターが、娘を取り返すために策略するというストーリーです。結果的にはペルセフォネは、一年の半分をデーメーターのもと光の世界で過ごし、残りの半分をプルートーのもと闇の世界で過ごすということになります。劇の主人公はペルセフォネだと言えますが、あくまでデーメーターの秘儀として存在していました。

この原話のイメージを持っている人は、ヴェークマンの神秘劇に驚きを感じるはずです。ヴェークマンのヴァージョンでは、伝統的なエレウシスの神秘劇の内容とは違い、ペルセフォネの母であるデーメーターがごくわずかしか登場しません。それに変わってキーマン的役割を担うのがヘルメス(水星)です。原話では、子供のように母親に依存しているようにも思えたペルセフォネは、自ら望んで人間の苦しみと対面し、それによって強い魂の愛の力を育んでいきます。ヘルメスは、そんなペルセフォネが自分で選んだ霊的指導者で、彼女が生きることへの謎にぶつかる時、そして先に進めなくなった時に正しい方向を示唆してくれる存在として描かれています。

もともとこの神秘劇は シュタイナーが生前、新しくヘルメスの神秘劇を書く必然性をヴェークマンに強く訴えたことから生まれたものでした。ですからヴェークマンのペルセフォネ神秘劇は、シュタイナーが求めていた癒しと変容を司るヘルメスの新しい秘儀の内容を劇として芸術的に表現したものだと言えます。ペルセフォネ神秘劇は、シュタイナーとともにスピリチュアルな時代の新しい医学の礎を築いたヴェークマンの当時の思い、シュタイナーの求めていた方向を彼の死後も未来へと繋げていきたいという強い願いによって生み出されたのです。